2003年 十勝沖地震
レポート・出版物
Go to English Report
概要
2003年9月26日(金)の午前4時50分ごろ、北海道十勝沖を震源とする強い地震が発生しました。 震源は襟裳岬の東南東約80kmで、震源の深さは約42km、地震規模(Mjma)は8.0と報じられました。 この地震の規模は兵庫県南部地震の約10倍の大きさでした。
ABSコンサルティングでは、小林由事(Principal Engineer)、山田進二(Engineer)、久保智弘(Engineer)の3名が、 地震発生当日の夜に現地入りし、翌27日に室蘭市、苫小牧市、静内町、三石町、浦河町、 28日に帯広市、大樹町、広尾町、豊頃町、釧路市、29日に釧路市、釧路町、30日に札幌市を調査しました。 これらの調査した地域の震度は、6弱~3でした。
今回の地震被害の特徴は、建物、港湾施設、ライフラインに加え、津波の被害があったことです。 また、地震エネルギーの解放により、北アメリカプレート上面にあたる北海道の地盤が北海道側にはね上がったため、 北海道東南部(帯広南方~釧路間)の広域に及ぶ、地殻変動、地表面変位が見られました。
(下図中で"Day1"は27日(土)、"Day2"は28日(日)、"Day3"は29日(月)、"Day4"は30日(火)を示します。)
地震
今回の地震は太平洋プレートが北海道のある北アメリカプレートの下に年約8cmの速さで、沈みこんでおり、 このプレートのひずみが解放されることによる「プレート境界型」の地震と見られています。 この地域では、ぶつかり合うプレートが長いことから、ひずみが解放された場合は大規模になりやすく、 M7~8の大地震が数十年~100年周期で発生しています。またこの地震は津波を伴うことが多いのも特徴とされています。 地震調査委員会では、今年3月、この付近でM8.1の地震が「今後30年以内に60%の確率で起こる」と予測しており、 気象庁によれば、今回の地震がこれに該当する可能性があるということです。今回この地震でずれた断層の面積は防災科学技術研究所によると、 長さ100km、幅50kmで、東西方向に4~5mずれ、モーメントマグニチュード(Mw)は7.9とされています。 国土地理院によると、26日の地震発生時にも、えりも町の観測点が95cm、広尾町では97cm移動しました。 つまり、北海道が、ひずみの解放により、はねあがったため、東南方向に伸びた形となりました。 またこのことは豊頃町~音別町で広域の地殻変動があった(後述の道路被害を参照)事実からも裏付けられます。
なお、これまでこの地域での地震災害は、1993年釧路沖地震(M7.5)、北海道南西沖地震(M7.8)、1994年北海道東方沖地震(M8.2)と 過去10年間で3度の大地震に見舞われています。
今回の地震は、2003年9月26日午前4時50分がM8.0、深さ47km、同日6時8分にM7.0深さ60kmと推定され、この2度とも最大震度は6弱の大地震となりました。 2003年9月26日午前4時50分の地震における今回調査した範囲の各地の震度とK-NetのPGA、PGV及び調査で各自治体に伺った内容を下の表に示します (表中のPGV値は加速度にFFTで台形のバンドパスフィルターをかけて速度に変換し算出したものです) 。
建築物

<大樹町>
広尾郡大樹町の大樹町役場の建物(PHOTO 01, PHOTO 02)はS造3階建ての建物です。建物最上部に位置する展望台2層部分の上部に地震動による 被害が出ています。これは、最上部の屋根がパラペット自重に加え、完全防水が施されて、屋根が重くなっており、さらにその屋根を支える支柱が 4本の柱のみで、地震動に対して耐力的に不十分だったためと考えられます。

大樹町小学校は、前述した大樹町役場の近くにあり、体育館(PHOTO 03)の外壁、ガラスや校舎(PHOTO 04)の外壁、柱、ガラスに被害が出ています。 この小学校は広域避難所になっており、このように被害の出てしまう小学校に避難することは有効なのかという検討が必要と考えられます。

<釧路町>
釧路郡釧路町の釧路町役場の建物は、比較的新しい建物で、地震動による被害は新聞などでも報じられたとおり、入り口にかかる庇フレームに被害が 出ました。しかし、我々が訪れたときには、落下した躯体は完全に撤去されていました。釧路町役場からご提供いただいた写真(PHOTO 05)を示します。

<浦河町>
浦河郡浦河町の浦河小学校は、RC3階建ての校舎がL字型に配置された平面形状となっています(PHOTO 06)。このうち、入り口のある建物部分(PHOTO 07)と 教室のある建物部分をつなぐエキスパンションジョイント部分の外壁(PHOTO 08)、入り口付近の柱の基礎部分(PHOTO 09)に被害が出ていました。 またこの小学校では、被害の無かった教室を利用して、週明けの月曜日(29日)から平常通りの授業を行うとの報道がありました。

浦河町内では、この他にも建物の全半壊が見られました。

<釧路市>
釧路空港では管制棟及びターミナルビルの天井パネルが落下し(PHOTO10, PHOTO11)、一時航空管制業務ができなくなったため空港が閉鎖されました。 26日午後4時55分には復旧作業が終了し再開されました。この被害により、36便中32便が欠航となりました。

釧路漁港内の建物に液状化による被害が見られました。この建物にはエキスパンションジョイントが設けられており、構造的には建物中央部を 境に2棟の建物躯体から成っています(PHOTO 12, PHOTO13)。そのうち海側に位置する部分に、液状化被害が見られました。 建物中央のエキスパンションジョイント部分から、海側にかけて少しずつ沈下しており、最も海側の建物端部では、450mm程の沈下が 見られました(PHOTO 14)。しかし、我々が調査に訪れた際には、普段どおり使用されていました。

<豊頃町>
中川郡豊頃町の大津港内にある漁協の建物で、津波により内部が浸水した形跡が見られました。また、この建物周囲の地盤は液状化により300mmほど 沈下していました(PHOTO 15, PHOTO 16)。

<札幌市>
札幌市清田区美しが丘では、7、8棟の民家が傾いていました。これは地盤沈下によるものと考えられます。また、民家に面した舗装道路が、 30~40mの範囲に亘って沈下しており、最大の沈下量は30~40cm程と見られました(PHOTO 17)。

プラント被害

<苫小牧市>
消防庁災害対策本部によると、地震発生直後の26日午前4時52分、出光興産株式会社北海道製油所の屋外タンク(原油32,778kl)でリング火災が 発生、また、付近の配管からの漏油火災が発生し、同日午後12時9分に鎮火しました(PHOTO 18)。同タンクは「浮き屋根式」と呼ばれ、タンク内の 原油の上に鉄製のふたが浮いており、貯蔵量によって上下する構造となっており、消防庁などによると、タンク内の原油が地震で波打ち、 ふたが揺れ動く現象「スロッシング(液面揺動)現象」により、ふた表面に油が広がり、ふたがタンク内壁とぶつかって火花が発生し、原油に引火 した可能性があると考えられています。28日午前10時36分には、同製油所内のナフサタンク(26,000kl)で、スロッシング現象により 浮き屋根表面に漏出していたナフサに、何らかの原因で引火し、火災が発生しました。この他、苫小牧市内の石油貯蔵施設では、スロッシング現象に より油が屋根の上に漏れだしたタンクが合計で約90基報告されています。

インフラストラクチャー

<大樹町>
広尾郡大樹町の歴舟橋で、橋が沈下する橋梁被害が見られました(PHOTO 19)。歴舟川にかかるこの橋では、橋の中央部に配置されている橋脚の 基礎部分で地盤が変動し、橋の中央部が鉛直方向に約120mm沈下しました(PHOTO 20)。

港湾施設

<広尾町>
広尾郡広尾町の十勝港では、水平方向に150mm、鉛直方向に150~200mmの変位を生じる側方流動が見られました(PHOTO 21, PHOTO 22)。 この側方流動によって、護岸に多くのクラックが見られました。

<豊頃町>
中川郡豊頃町の大津港の護岸で幅20mm、鉛直方向に90~200mmの側方流動が見られ、それに伴う地盤変形が多く見られました(PHOTO 23)。

大津港では、長さ20~30mに亘りほぼ一直線上に液状化現象が見られました(PHOTO 24)。また、漁港内の多くのところで、墳砂の跡が見られました(PHOTO 25)。

また、大津港では津波による被害が見られました。津波により漁船が持ち上げられ、支持部材が波にさらわれて、漁船が陸上に 押し上げられました(PHOTO 26)。また、係留していた作業船のうち、津波によって港内に流された船などに対して、被害後の復旧処理作業が 行われていました(PHOTO 27)。

<釧路市>
釧路市浜町の釧路港では、液状化により護岸に水平方向で約140mm、鉛直方向で約230mmの変位が見られました(PHOTO 28)。また、所々で墳砂の跡も 見られました(PHOTO 29)。
このように大きな地盤変形により生じてしまった段差のために、漁船から荷卸しする際の作業において、段差を避けるために2台のフォークリフトを 使用しており、作業に大きく支障が出ていると地元のテレビで報じられていました。

墓石・石碑の被害

<釧路町>
釧路郡釧路町の紫雲台墓地で、墓石の転倒被害が見られました。今回調査した地域の墓石は転倒しないようにシーリングされているものが多く、 震度5強を観測した地域でも転倒した墓石は少なかったのですが、この紫雲台墓地では転倒している墓石が見られました(PHOTO 30, PHOTO 31, PHOTO 32)。

<釧路市>
釧路市の厳島神社は傾斜地に立てられており、傾斜地の下の鳥居のみが地震により転倒していました(PHOTO 33, PHOTO 34)。 傾斜地の上にある鳥居や周辺の住宅には被害は見られませんでした(PHOTO 35)。

ライフライン

■電気
北海道全域で、高圧線の断線、苫東厚真火力発電所4号機の自動停止、また、地盤の崩壊等により各地で電信柱が傾くなどの被害がでており (PHOTO 36)、これらの影響により一時期、最大で約37万戸で停電が生じましたが、大部分は数時間の内に復旧しています。北海道電力の発表に よると、26日午後 9時13分、豊頃町の53戸の復旧により全道完全復旧しています。青森県稲垣村でも1340戸で停電が生じましたが、1時間半後に 復旧しています。
苫東厚真火力発電所では、点検により一部装置の不具合が確認されていますが、地震による大きな被害は生じていません。泊原子力発電所では 被害の報告はなく、停電を受け一時的に出力を最大時の55%に落とし運転していましたが、26日午前9時20分までに通常運転に戻しています。

■上水道/下水道
北海道庁の発表によると、各地で停電に伴う給水停止、地盤変動・液状化による配水管の破損・漏水等の原因により、14市32町2村、16,006戸で 断水が生じました。また、赤水・濁りなどの被害も出ています。28日午後4時時点でなお、1,640戸が断水していました。
釧路町新東陽団地では、液状化による噴砂(PHOTO 37)や、地下埋設下水配管が浮き上がる現象が発生し、地表面には、突出したマンホールが 至るところで見られました(PHOTO 38)。釧路町役場のまとめによると、新東陽団地内管路延長8km中80%でこのような被害がでています。

■ガス
大きな揺れを記録した地域の多くではプロパンガスが使用されており、中川郡豊頃町の住民の方によると、地震後にプロパンガスの停止装置が 働いて、ガスが一時的に使用できなくなりましたが、ガス会社の方が各住戸を点検して回り、すぐに復旧したそうです。また、都市ガス供給地域で ある室蘭市、釧路市等においても、耐震装置の作動による一時供給停止はあったものの、大きな被害は報告されていません。

■通信
携帯電話基地局の非常用電源が切れたために、三石郡三石町の一部地域で携帯電話会社2社の携帯電話が、26日午後7時頃まで不通となったのを 除いて、大きな被害は報告されていません。

■道路
地震により亀裂や沈下或いは山崩れ・崖崩れが発生し、各地で道路の通行止め、通行規制がされていました。今回、被害調査した範囲の多くの道路で も、地震による地盤変形がおき、陥没や亀裂・横ずれの跡が見られました。
広尾郡大樹町や中川郡豊頃町では、傾斜地を通る国道336号線で、円弧すべり崩壊が生じました。変位量については、大樹町を示す下地図の(1)の場所で 歩道部分が水平方向に230mm、鉛直方向に170mm移動(PHOTO 39)、豊頃町を示す下地図の②の部分で水平方向に700mm、鉛直方向に400mm移動していました (PHOTO 40)。同じく豊頃町の下地図(3)、(4)で示す付近の国道336号線では、地中に下水道などの管渠が通っていると思われる部分がこれに沿って約300mm 沈下している道路(PHOTO 41)や、田畑の中を通る土手状の道路で盛土の左右への滑り(崩れ)が原因と思われる道路の沈下が見られました(PHOTO 42)。
十勝川河口の堤防では、地震による大規模な堤防の崩壊が見られました(PHOTO43, PHOTO44)。

■鉄道
鉄道は、根室線直別付近で特急「まりも」が脱線する被害や、線路の陥没や湾曲、橋げたのずれなど100箇所近い被害が確認されており、広範囲で不通と なりました。日高線浦河駅付近の鉄橋では橋を支えるコンクリート橋台に30mmのクラックが見られました(PHOTO45, PHOTO46)。

結論

  1. 少なかった建物被害
    今回の地震は幸い、陸に近い水深の浅いところで起きたので、津波が大きくならなかったと考えられます。
    北海道の家屋は、屋根に雪が積もるため、凍害対策から鉄板やアルミ材などの軽くて強い材質で屋根が作られており、また、 屋根の設計荷重が雪荷重を見込んで設定されていることから、多雪地域以外の建物よりも耐震性が高いと考えられます。基礎部については、 凍結深度を考慮するため、根入れが深く、他の地方よりも安定した基礎となっていると考えられること、さらに、断熱のために開口部の面積が 小さく結果的に壁量が多くなっており、耐震性に富んだ建物となっていることも、建物被害が少なかった要因と考えられます。

  2. 広域に亘った震度5強、6弱の範囲
    これは、前述した通り、マグニチュードが大きく、震源が深い地震であり、さらに本州の下をとおる火山フロントの影響により大きな震度が 本州でも広範囲にわたって観測されたと考えられます。

  3. 地域ぐるみの防災対策、地震対策
    ある新聞記事によると、「太平洋沿岸の約6割の市町村では津波危険図がない」ということでした。しかし、調査で伺った自治体では防災マップや 安全ハンドブックを作成し、各住戸に配布していました。近年、この地域では多くの地震を経験し、津波などの災害を経験してきており、その都度、 自治体が防災無線により避難指示を出すなどの適切な対応を取ってきました。このため、住民の防災意識は高く、地震に対する住民の備えがなされ、 地震があったら高台へ逃げるという習慣が身についており、このことが、津波災害軽減につながったものと考えられます。

  4. 地盤変動による被害
    帯広~釧路には広範囲にわたり、大規模な地盤変動が見られました。この結果、国道には、水平、鉛直方向に変位、寸断が生じ、十勝川、歴舟川に かかる橋脚、帯広―根室間の路線は不通となりました。復旧には非常に長い時間がかかるため、直接住民の生活にかかわる重大な被害となっています。
謝辞

今回の地震調査では、災害復旧の渦中にもかかわらず、お伺いした自治体の方には快く質問にお答えしていただきました。ここに記して感謝の意と させていただきます。また、K-Netの観測データを使用させていただきました。ここに記して感謝の意とさせていただきます。

© Copyright 2008 ABSG Consulting Inc. All Rights Reserved.