宮城県沖の地震
レポート・出版物
概要

2003年5月26日月曜日午後6時24分頃、宮城県気仙沼市沖を震源とするマグニチュード(M)7.0の地震が発生しました。震源深さは71kmです。
今回の地震により、東北6県で171人の重軽傷者が出ました(出典:6月1日消防庁)。ABSはデータ収集のため、被害を受けた地域にエンジニアチームを派遣しました。
堀裕弘(Lead Engineer)、矢澤俊介(Engineer)、久保智弘(Engineer)が地震発生から1日経過した火曜日の午後に現地に到着しました。

地震

今回の地震は、太平洋プレート内部で発生したと考えられ、太平洋プレートの沈み込む方向に圧縮軸をもつ型と考えられています。地震の規模を表す マグニチュード(M)は気象庁によりM7.0で、震源の深さは71kmと推定されています。
地震を起こした断層の面積は15km×15km、断層のずれた量は縦方向に5.0mと報告されています。また、この付近で起きたプレート内部の地震では最大規模のものです。
今回の地震は、これまで地震調査委員会で想定している宮城県沖地震とは、1978年の宮城県沖地震(M7.4)の震央と北北西に約80kmはなれていて、発震機構も違うことから、 異なるものと考えられます。

地震動および計測震度計の設置

<江刺市>
江刺市役所の話によると、江刺市では、家屋や公共施設、学校の損傷、道路や田畑での地割れなどの被害が報告されています。

<住田町>
気仙郡住田町では非常に大きな加速度を記録しました。観測所のある世田米字子飼沢の近傍では、山の斜面で崖崩れがあり(PHOTO 01)、道路が半分ふさがれる程の 被害がでました。

<一関市>
一関市の震度階は、一関駅から約6.5km北東地点の舞川で得られた値で、5強でした。駅周辺は、大きな被害は見られないものの、一部の低層店舗、住宅において タイルの落下(PHOTO 02)あるいは、モルタル仕上げの剥離(PHOTO 03)等、外装材の被害が見られました。駅前で一番大きな店舗は、エレベータシャフトのガラスに 被害(PHOTO 04)が見られました。

一部の建物では、今後、今回の地震よりも大きな地震動を受けた場合、甚大な構造的被害を予見させるような状態も見られました。例えば、PHOTO 05の窓間の壁は、 さらに大きなせん断ひび割れを生じると思われます。PHOTO 06の露出柱脚は、アンカーボルトが破断する可能性があると思われます。新幹線一関駅の鉄骨柱脚に おいても今回の地震によるズレと思われるものが観察されました(PHOTO 07)。詳細な調査が必要と思われますが、今後より大きな地震動を受けた際、この柱脚が 弱点になる可能性があると思われます。

また弥栄中学校では昭和45年竣工の体育館の窓ガラス(PHOTO 08)が割れ落ち、外壁に大きな亀裂(PHOTO 09)が生じました。体育館の内部では入り口で天井が落下し、 内壁にも亀裂が入るなど(PHOTO 10)、建物全体に亘って多数の被害が見られました。建物の変形による窓枠の変形(PHOTO 11)も見られました。一方、体育館のすぐ隣に 位置する校舎では、壁に軽微なひび割れが見られた程度で、大きな損傷はありませんでした。今回の地震で同じ敷地内でも被害の程度に差が出た要因として、校舎は 昭和53年の宮城沖地震で大きな被害が出た際に建て替えており、体育館の建築年代が校舎に比べて古いということが挙げられます。さらに、鉄骨造である体育館の 建物変形が校舎に比べて大きく、非構造部材の損傷が多くの箇所に現れたものと考えられます。また弥栄中学校では、運動場の沈下・地割れ被害(PHOTO 12)が 見られました。地割れは最大箇所で幅が8cmで、段差が5cm程度でした。
その他、真滝中学校では校門の門の一部が崩壊・転倒するという被害がでました。

<古川市>
古川市役所の話によると、古川市ではいくつかの小学校、中学校で地盤が沈下するなどの被害が見られました。その他、軽い被害として、天井が落ちたり、 窓が割れるなどの被害が報告されています。

<平泉市>
中尊寺、毛越寺などで地震による被害が見られました。いずれも建物の一部に軽い被害が発生しましたが、壁にひびが入ったり、ガラスが割れた程度で、重要文化財 には被害は見られませんでした。中尊寺では本堂内の建物外壁が剥れ落ちる被害(PHOTO 13)や本堂への門の柱脚がずれるなどの被害(PHOTO 14)が生じました。

<石巻市>
石巻市役所の話によると、石巻市では、多くの住居用建物に被害が見られました。報告されている被害の多くは屋根瓦の損傷、ブロック壁の損傷、及び地盤沈下 などです。石巻駅近くでは、地盤の沈下(PHOTO 15)によって電柱が傾く(PHOTO 16)などの被害が生じました。また鹿妻山では山の斜面が崩れる被害が生じ、 山に近接する一部の住宅(PHOTO 17)には避難勧告が出されました。

港湾施設

<大船渡市>
大船渡市では港に被害が見られました。大船渡市野野田埠頭で、この地震により、液状化現象による噴砂と思われる跡(PHOTO 18)が見られました。また、護岸で 海側に最大10cmのずれ(PHOTO 19)も見られました。

インフラストラクチャー

<石鳥谷町>
岩手県稗貫郡石鳥谷町猪鼻の東北新幹線、新花巻-盛岡間の第5猪鼻高架橋では、柱が損傷する被害が見られました(PHOTO 20)。柱の帯筋間隔は250mm程度で、 東西方向の水平力によりせん断破壊が卓越した破壊形状になっています(PHOTO 21)。せん断破壊した断面は、内部のコンクリートまでが崩れ落ち、軸力を支え きれない主筋が外部にはらんでいます(PHOTO 22)。柱の被害は、約100mに亘る区間の10本の柱に見られました。いずれの柱も、モーメントフレームを構成する ユニット(5スパン)の端部にあたる柱での被害でした。

<江刺市>
江刺市では地盤の沈下と道路に亀裂が生じる被害(PHOTO 23)が見られました。沈下により生じた段差は最大で10cmに及ぶもの(PHOTO 24)でした。 また、被害のあった道路は傾斜地であり、道路の片側は地盤の低い谷に向かっての傾斜となっています。

ライフライン

<江刺市>
江刺市役所の話によると、江刺市では、変電所でトランスが倒れるなどの地震被害が発生しました。この地震で、市内7000戸が停電となりました。 一時間ほどで復旧したものの、一部の地域では翌日の0時半頃まで復旧しないところもあったという報告があります。またガスについては、都市ガスではなく プロパンガスでの供給であったため、ガス管の破断などの被害は報告されていませんでした。

結論

岩手県・宮城県を中心に地震があり、震度6弱が観測されました。けが人は出ましたが、幸い死者はありませんでした。私達が現地における被害調査より受けた 印象は、2000年10月に発生した鳥取地震と同様に気象庁により発表された震度階は、実際の被害状況より大きな値ではないかというものでした。震度階は、地震後の 全ての(被災地、遠隔地)人々、関係機関の地震後の対策方法あるいは行動に対する重要な判断指標となるため、より被害状況に即した値であることが望ましいと 思われます。

この地域は、1978年に発生した宮城県沖地震と同レベルの周期的に起きる大地震が発生する可能性が非常に高くなっています。その地震に対する備えとして、 今回の地震により受けた微かな異変も見逃すべきではないと思われます。今回は、大きな被害に至らなかった場合でも、今後より大きな地震動を受けた際、その部分に より大きな被害を受ける可能性が大きいと考えられるからです。

今回の震度階分布では、震源距離に応じた震度階分布にはなっていません。これは、地盤による増幅が大きく影響しているためで、増幅の大きい地域は、 震源距離が遠いにも関わらず震度階は大きくなっています。現在の設計では、大まかな地域係数が用いられていますが、このようなデータを活用しより細やかな外力の 設定が望まれます。

日本においては、地震は全ての地域において発生するものと考え、最低でも1981年以降の新耐震設計基準を満足する耐力を確保するよう補強をしておくべきだと 思われます。特に、代替の利かないもので公共性の高いものは尚更だと思われます。

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