台湾集集地震
レポート・出版物
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概要


1999年9月21日マグニチュード7.6の地震が台湾を襲った。震央は山野のリゾート地との境界にある小さな町集集の北西7km、 首都台北からは155kmに位置する。地震は今世紀台湾を襲った中では最大のもので、近年の記録の中でも最大級のものであると考えられる。 大きな揺れが40秒間続いた。地震は、台湾島の全土で感じられた。地震後5日間に無数の余震が記録され、そのうちの数回は M6.0からM6.8規模のものであった。

死者数は、2,000人から2,500人に上り、死傷者のほとんどは、アパート建物やマンションの倒壊によるものである。 震源付近での死者の多くは、2階から4階建て建物の下敷きになった。震源地から離れたところでは、 新築の7階から12階建ての建物の倒壊が原因と見られる。

地震のあった日の早朝、EQE(現・ABS Consulting)は被災地へエンジニアのチームを派遣し、被害の状況の調査とクライアントへの援助活動を行った。 また、今回の大惨事から学んだ教訓を将来のリスクマネジメントに生かすべく書面化した。本報告書は地震がもたらした台湾の人々、 建築構造及び台湾への影響に関する初期段階での発見事項をまとめたものである。 EQEでは、さらなるデータを収集、コンパイルし、分析している過程である。

地震


今回の地震は、台湾歴史上に記録された地震の中でも、最も規模の大きな地震であり、震源中央範囲中では0.5から1.0gの 大きな地表加速度が記録された。いくつもの異なる激しい地盤破壊が観測された。今回の地震で観察された最も特徴的な状況のひとつは、 断層に沿った非常に大規模な鉛直方向の地盤のずれであり、これらのずれは多くの場所で3mから6mまでに達している。 石岡にあるダムでは、地盤の鉛直ずれが15mから20m程度観測された(PHOTO 01)。研究者は、この驚異的な鉛直地盤活動の解明に、 かなりの時間を要することとなるであろう。

台湾はユーラシアプレートとフィリピン海プレートとが衝突し沈み込むゾーンに位置する。 台湾でのプレート衝突ゾーンは、横ずれ断層と北東方向の断層により明らかにされている。 主な断層は台湾の西側丘陵に沿って、南の高雄市から北の台北市まで至近に位置している。 今回の地震は、このゾーンの中央の近くで発生した。

今回の地震は、世界中に他の地震リスク地域にとっても特に重要なものと言える。 なぜならこの地震が、主要な断層のすぐ近くにある高人口密度、近代的なインフラ・工業・建物を抱える近代的な地域を襲ったからである。 今回の地震は、あまり頻繁に大きな地震を経験しない地域にとっても、どの程度の被害と人命喪失が及ぼされるかを示したという意味で 重要と言える。地震から得られた重要な教訓は、あまり大きな地震の発生しない同様な地域に対して非常に有効なものである。

建築物


10,000以上の建物が、破壊または大きな損害を受けた。 破壊した建物は、とくに石積み壁と鉄筋コンクリート壁を持つ鉄筋コンクリート構造に多く見られた。 その被害は、古い小さな建物から最も現代的な高層ビルまで広い範囲に及んだ。

断層線からおおよそ5km離れたところでは、東西方向の地表加速度が1.0gであった。 1階が比較的軟弱な数多くの建物が、今回の激しい揺れで壊されることとなった(PHOTO 02)。 これは、特に東西方向に弱い建物に顕著であった。集集町の建物の70%が、今回の地震により破壊された。 他の都市で被害が大きかったのは、中寮・露峰・大里・大坑・石岡・東勢である。


断層線の真上では、鉛直方向の地盤のずれは断層に沿って建つ全ての建物を完全に破壊した(PHOTO 03)。 こうした光景は、名間・大坑・石岡において観察されている。

断層線から5km以上のところでは、古い建物はほぼ大丈夫であったにもかかわらず、 6階以上の現代的な建物で被害を受けている例が数多く観察された。台湾の建築基準は日本及びカリフォルニアの基準に 匹敵するレベルであるが、粗悪な設計と施工、および建築基準における耐震規定の不適切な執行とが、建物被害の原因となっている。
この被害状況は特に豊原市で顕著に見られた。ここには、数多くの古い1階から4階建ての建物と、少数の新しい10階以上高層ビルとがあり、 古い建物はほとんど被害を受けず、高層ビルはことごとく被害を受けている。最新の大規模ビルは4年前に建設された、 23建ての耐震壁を含む鉄筋コンクリート造のマンションであるが、このビルは大きな被害を受け、ビルの主要部分を完全に失っている。 豊原で最悪の被害は、12階建てアパートビルの崩壊(PHOTO 04)で、約40人が死亡した。このビルは一辺とその隅角周辺に開口部を持ち、 その部分が軟弱階となって、ねじれを起こした。このような不規則な形状と不十分な配筋とが、今回の悲劇を生んだようである。


台北では、地表動のレベルが低かったものの、2棟の建物が崩壊した。2棟のビルはいずれも12階建てで、 内の1棟はわずか数年前建ったものであった。台北の全く違う場所にあるこの2棟ビルの破壊原因は、まだ明らかではないが、 他の似たような数多くの建物は、ほとんど無被害であった。建物の不当な改装・改築、適切なエンジニア技術の欠如こそが、 恐らくは犯人だったものと考えらるのである。

その他では、台北のダウンタウンにあるほんのわずかな12階及び14階建ての商業オフィスビルが軽微な被害を受けた。 これら建物のいくつかでは、耐震壁に生じたクラックの補修が必要であり、補修を開始し、建物の仕上げを修復するのに、 ビルテナントの業務が、数週間程度中断を余儀なくされるものと考えられる。

ハイテク工業施設


新竹は震源から100km離れたところに位置する。この都市はハイテク産業を中心とする工業団地として知られ、 約30の企業が、ここで世界の半導体及びシリコン製品生産の大部分を供給する重要な開発地なのである。 地震による停電が、この地域で最も深刻な問題となった。このハイテク工業団地にあるほぼすべて企業は数日電力供給を中断され、 業務中断により一日当り1億ドルの損失を被った。地震によって345kVの電圧転送塔と中継変電所が破壊されたために、 通常の安定した台湾南部からの電力供給が不可能となった。台北を含む他の地域において、市民用及び小規模商業用の電力が まず配給されたために、この工業団地の主要な電力消費者に対する電力供給は、実にゆっくりと復旧が進むこととなった。

ハイテク工業団地にある建物の被害は、窓の破損やコンクリート壁の小さなクラックなどに限られている。 この地域の地表動は小さく、地表加速度は0.2g程度に過ぎない。いくつかの半導体製造工場では、天井や底上げされた床の落下など、 部分的な被害を受けている。


工業団地のシリコンウェハー製造工場では、様々な設備機器の被害が報告されている。最も被害の大きな設備には、 鉛直の放散炉内にある半導体の原材料石英チューブの破壊が含まれている(PHOTO 05)。この石英「ボート」内に収まっていた大半の シリコンウェハーはまた、揺れによって跳ね上げられた際に、ひび割れを起こしている。

地震リスクが既知であるにもかかわらず、施設内の高価な設備のほとんどはアンカーされていなかった。 製造設備が移動したケースが数多く見受けられ、少なくとも一つのケースでは、設備が転倒しています。 幸い、チューブの破壊による火災あるいは有毒ガス放出の被害は見られなかった。もし地表動がもう少し強かったなら、 被害と損失ははるかに大きくなっていたものと考えられている。

スプリンクラー配管からの水の漏洩により、いくつかの工場では多大な損害を引き起こした。 これには、ステッパーやクリーンルームの被害などが含まれている。スプリンクラー配管には、 耐震用のブレースが設けられていなかった。

あるウェハー企業では、非常用自家発電設備が焼けてしまい、結果として大きな損失を受けることとなった。 地震発生後、発電機は止まることなく回り続けていたが、発電機の電力を失うと、工場は真っ暗になり、 クリーンルームの環境を維持するファンも動かなくなった(PHOTO 06)。


工業施設


工業施設での被害の度合いは、実に様々であった。コンクリート及び骨材焼成プラントについては、 台湾全土、台北市でさえも大きな被害を受けた。材料で満たされた荷重の大きいサイロやホッパー (材料を流し込むじょうご状の器)は崩壊し、これらが崩れ落ちる際、隣接する構造物や設備機器に深刻な被害を引き起こした(PHOTO 07)。 こうした施設の設計・施工に適用される耐震設計指針は、明らかに大幅な改正が必要となっている。

埔里市では、築30年の紹興酒醸造所が大きな被害を受けた。多くの建物は、石積み壁を抱える鉄筋コンクリート構造であり、 その多くが倒壊した。南投市のビール醸造所では、漏れたアルコールが火花で引火し、火災を生じたことによる損失を経験した。 業務中断よる営業損失額は、非常に大きなものと見積もられている。

震央から70kmの台中港では、底の平らな鉄製の糖蜜入りタンクが多く地震の影響を受けた。 内容物のスロッシングが、タンク上部及び側壁部に大きな被害を引き起こし、内容物の溢流を招いた(PHOTO 08)。 近隣の食品加工プラントにはいくつかの穀物サイロがあり、地震の直前に台風の接近が予想されていたため、サイロは満杯にされていた。 ところがサイロを襲ったのは地震であり、満杯のサイロはことごとく崩壊に至った。


南投市及び台中市では、工業団地はあまり多く見られない。コンクリート壁あるいはブロック壁を抱える鉄筋コンクリート造の建物では、 中程度の被害に留まった。多くの施設で設備機器が移動・転倒し、業務中断期間を引き延ばす結果となった。 これらは設備機器のアンカーにより容易に回避できた被害と考えられる。鉄骨造の倉庫建物では、重大な被害を受け、建物が一方向に傾いた。 これは、建物内の収蔵棚が倒壊した衝撃により、柱が曲げ降伏したことによるものである。

インフラストラクチャ


<ライフライン>

台湾全土の電力供給は、部分的には数日で復旧した。長期間の停電は、スイッチヤード・変電所の被害、高圧電線塔の被害、 2つの原子力発電所の停止など、広範囲に渡る複合的な被害によるものと判断される。台北では、水道・ガス供給も停電の煽りを受けた。 電話も断続的に遮断されていた。

震央から約10km内に3つの水力発電所があり、これらの発電所は、建物の軽微な損傷、また中継不良のような例外的な制御上の困難のみで、 全般的に良く機能していた。あるプラントでは、地滑りによって配管に被害を受けている。

台湾島北端部の金山と基隆には、それぞれ原子力発電所が立地している。これらプラントは地震被害を免れた。 この2つの発電所は、中継グリッドシステムの地震被害によって、また台湾北部での電力需要を満たせなくなった時に停止することとなった。 台湾南端の馬鞍山プラントは、停止することなく稼動した。しかし、変電所及び中継塔の被害のために、 馬鞍山の供給電力は台湾北部に伝達されなかった。

新竹と麦寮(震央の西部約50km)に位置するコージェネレーションプラントでの被害は報告されていない。


345 kVの中寮変電所は、台湾における電力供給システムの最も重要な施設の一つである。この変電所は、 北部と南部の原子力発電所をつなぐポイントになっている。主要な制御棟では、軽微な構造被害のみが観察され、制御室内では、 アンカーのない電力盤が転倒した。また、屋外敷地内の設備機器は大きな被害を受けた(PHOTO 09)。 これは、大きな地震動レベルや局所的な地盤沈下・崩落に起因するものと考えられる。磁器質の絶縁用の柱・ブッシング (穴の内面にはめこむ円筒部品))等は、交換する必要があり、全システムの完全な復旧には数ヶ月を要するものと考えられる。

<港湾>

台中港沿岸での液状化の範囲は、断層から離れているにもかかわらず、深刻なものであった。 20mにも達する沈下による穴を生じており(PHOTO 10)、見たところでは、埋立地の下部にある深部のシルト質砂地盤の液状化によるものと判断される。 護岸壁は多少傾斜するに留まったものの、岸壁背後の地盤は2m程度沈下した。台中港施設再建に予想される復旧期間は2年にも及ぶ。 しかし、台湾の他の港は十分に機能している。

<水道供給>

石岡の上水槽は、ダムの決壊により水位を失うこととなった。ダムの左側は、断層により約25mも落下している。 巨大な力が頑強な構造物の全体をゆがめ(全ゲートが開閉不能)、一部分を崩壊させており、このダムは修復不能であるように見受けられる。 話によれば、上流に新しいダムが建設されるようである。

石岡では著しい地盤隆起が、上水用水路の流れを元の流れから完全に変えてしまっている。 緊急の水路が、流れを戻すために急遽掘られることとなった。

地上の排水渠や地下の埋設水道管は、断層と交差するところで破損したが、地震後4日以内には、 新しく掘られた溝渠に新しい配管が埋設された。

<交通システム>

道路では多数の区間が、断層破壊や地滑りに起因する地面の鉛直ずれにより重大な被害を受けた(PHOTO 11)。 道路の補修作業、倒壊建物の撤去作業、そして絶望的ではありながらも被害地域へ到達しようとする多数の緊急車両が ひどい交通渋滞を引き起こした。

南投市の郊外では、地震の影響から、新しい南投高速道路の高架が支柱で支えられる結果となった。 巨大な橋脚の柱頭部には深刻なひび割れが発生し(PHOTO 12)、端部の車線部分が垂れ下がっている。

露峰と草屯を結ぶ高速3号線沿いの主要な橋梁の一つでは、柱脚の移動により1スパン分が崩落した。 ここでは川の土手に沿って、沈み込み断層が生じている。その他の地域でも橋が数スパンに渡って崩落が見られた。 その内の一個所の崩落が、南北を結ぶ主要な鉄道を寸断させることとなった。

保険業界との関わり


保険業界における、今回の地震での損失は、それほど深刻なものではないと思われる。科学工業地区での操業中断、 原子力発電所での何日にも亘る発電中断(アイドリング)、石岡ダムの損害、などの巨大な経済的損失は、 保険はかけられていないと思われる。建物被害の多くが近代型高層居住用建物で、そのほとんどのケースで保険はかけられていない。 多くのマンション所有者はこれらの倒壊した建物の損失と抵当(ローン)を嘆いている。

今回の震央がもう少し北であったら、科学工業地区で激しい揺れを引き起こし、保険支払額は膨大な金額にのぼったことだろう。 このニア・ミスによって、保険会社が保険契約者に対し、先に会得した地震リスク軽減対策の必要性を説く、材料となるはずである。 ほとんどのケースは、単に機器類を床にアンカー固定する程度の、簡単なことなのである。

結論


台湾集集地震では、過去の悲惨な地震から繰り返し教えられてきた教訓を、残念ながら再認識する結果となった。

  • 生命の損失と建物の破壊は避けられる
    今日、新築建物で耐震対策のとられていない設計・施工があるのは恐ろしいことである。 現行の台湾の建築設計基準で提供されている通常の建築基準では、これが実態である。現在の通常の建物設計基準では、 建物とその収容物の安全は保証されない。適切な設計を行い、施工品質、第三者による設計の確認と施工の監理が非常に重要である。

  • 建築基準は人命安全を目的としている。
    台湾での建物被害を調査している間に明確になったことは、建物所有者が建築基準の目標としているところを理解していないということである。 基準を満たす設計をされた建物は、大地震の間は被害を受けないだろう。基準が目標とするのは、建物が安全であり、 建物内の人々が脱出できると言うことである。建物所有者が被害の少ない、より安全な建物を望むならば、要求を明確にし、 適切な調査やその他のchecks-and-balancesを行った上で、より洗練された「損傷制御設計」を開発し構築することができるのである。

  • 甚大な産業上の損害が回避可能であった
    今回の地震で被った産業界での損失は驚くべきことではない。すべての損害はすぐに予想できるものであった。 台湾の電力関係者の間では、代替となる送電線が無いことへのリスクを充分に懸念していた。電力のバックアップラインの建設は、 何年か前から開始していたが、土地確保の問題で計画は中断していたとのことである。構造物の性能について、特別な教訓はない。 経験を積んだ構造技術者であったら、地震の被害を引き起こすと思われる建物と設備の形状を正確に指摘し、救済することができただろう。

  • 断層破壊および地盤破壊は、土地利用計画のまずさ によるものである
    亀裂した断層はよく知られており、台湾の地質学専門家により文書化されている。カリフォルニア同様、 確認されている活断層ゾーンへの開発を制限する法律が必要と思われる。

  • 限られた地震保険の適用
    地震保険をかけているのは、台湾の住民の1%以下という報告である。危険地域の地図を改良し、向上し、 賢明な災害マネジメントソフトウェアを利用することにより、リスクベースの災害保険の価格付けを通じて、 保険の利用を拡大することできると思われる。リスクベースのアンダーライティングおよび価格付けを行うことにより、 土地利用計画や、リスク緩和策、建物改修プログラムに変化をもたらし、建物施工に改善がもたらされるだろう。
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